【美術展】西洋の木版画展
後半に入ると木版画は庶民の生活に浸透していく。子供向けの多色刷り絵本ではカラフルで可愛らしいイラストが表現されており、木版画の役割の移り変わりが興味深い。
近代以降、印刷技術や写真が発達すると、木版画でしかできない表現を模索するような抽象的な作品が見られた。
私はアンリ・リヴィエールというフランスの作家の作品が大変気に入った。
単純な描き込みでありながら、大胆な色の使い方が絵の印象を作りだしている。どことなくアニメ的な印象も受けるのも不思議だ。
初期のいかにも版画らしい版画郡や可愛らしい多色の絵本、近代以降の単純化された新境地など、木版画の変化をよく理解することができるよい展覧会だった、
【美術展】和巧絶佳展
panasonic.co.jp
現代の若手工芸家達が伝統の手法で現代の感性を表現していて、文脈を知らない人でも一目でで楽しめる美術展だ。
会場は東京・新橋駅のすぐ近くのパナソニック汐留美術館。
銀座からちょっと外れた静かなエリアで、有楽町駅を挟んだ反対側には三菱一号館美術館がある。
出品作品は多岐に渡るため、特に気に入った工芸家の作品を取り上げようと思う。私はひかり物が好きなので、キラキラ光る作品に惹かれがちだった。
※写真は自分で撮影したもの。全作品撮影可とのこと
池田晃将さんの作品
黒い図形に並ぶ輝く数列!!SF映画やアニメで見た奴!!!!!!と興奮してしまう作品群である。
数列で彩られたもの以外も、あのプリント基板みたいなSF柄(?)を模したものもあってじっくり見るのが楽しい。光の当たり加減でキラキラと輝いて大変美しくかっこいい。
個人的に資格や三角などの単純な図形が好きなのでそれも楽しかった!
山本茜さんの作品
ガラスの中に金箔で描かれた柄が閉じ込められている。
見る角度によってガラスの反射や色合い、金箔の見え方が変わって、色々な角度から眺めながらいつまでも見ていたくなる美しさだ。ガラスの形も様々で、単純な図形の中に驚くほどの工夫が込められている。
作家さんのウェブサイトに作品ギャラリーがあるので是非見ていただきたい。
akane-glass.com
橋本千毅さんの作品
螺鈿と平文による輝きが美しい、非常に繊細な作品だ。
上から見たときの蓋の装飾にうっとりしてから視線を下げると、側面の繊細で均等の取れた柄に驚く。
パッと見ると本展覧会に出品された作品の中でも「伝統的」に見えるが、眺めていると現代の感性にも理解できる美しさを持つことがわかる。手元において毎日を共にしたくなる愛らしさがある。
【本】機械学習&ディープラーニングのしくみと技術がこれ1冊でしっかりわかる教科書
特別専門知識のない読者でも読めるように作られているからか、手法や関数の解説はごく簡単であまり折り下げられていない。
別の分野でプログラマやってる人か、自身の仕事に機械学習を取り入れたり人が初めの一歩として読むのによいと思った。
説明するにあたり人工知能研究の歴史を解説しているページがあったが、「人工知能関連の技術はソフトやハードが普及するにしたがって人工知能として意識されなくなっていく」という話が面白かった。
将棋の棋士と人工知能の対戦は人工知能の存在がクローズアップされるが、すでに一般に普及してるビデオゲームのCPUはAIと呼ばれどあまり人工知能として意識しないようなものだろうか。
今特別な視線を向けられている自動運転や医療分野の人工知能活用なども、ただの機能になってしまう日がくるかもしれない。何かが特別なものでなくなって生活の中に溶け込んでいくのは人類の所持アイテムが増えたみたいで楽しい。
【本】余分なものをそぎ落として構図の法則に迫る「風景画の描き方」
恥ずかしながら「人体のデッサン技法」は挫折してしまって本棚で眠っているのだが、「風景画の描き方」は最後まで読むことが出来た。
主に鉛筆やペンなどを使った手法を前程にした風景画の本だが、前半の構図の解説は風景画以外の画面作りにも応用できそうな話になっている。
解説される手法は、一つ一つが小さいレベルまで分解され、短い文ではっきり言語化されているので初心者にも飲み込みやすくてよかった。
前半は一旦木や山から離れて、単純な図形を使って良い構図の作り方を解説している。
このパートにおける単純化はかなり徹底していて、キャンパスの形から話が始まり、3分の1程度は線のみを使って解説している。このやりかたはとてもありがたかった。これがもし木や丘を使ったものだったら、私はそれらのシルエットやタッチに気をとられてしまって先に進めていなかったかもしれない。
解説の内容もカタログ的な構図の説明でなく、良い構図にするためにおさえるべきポイントを的確に教えてくれる。言葉にしてしまえば単純なコツなのだが、自分で見つけ出すには相当な時間がかかる事をポンっと教えてもらえてあまりにもお得だ。
この前半部分を読むだけでも、0から画面の構図を考え出す能力を上げられると思う。
後半は風景を構成するパーツ(木・岩・山・雲・空・水・建物)の描き方に入る。
構図のパートと同様に、どう描けばそれらしくなるのかコツを教えてくれる。また、簡単なステップで機械的に組み立てる手法などが紹介されていて、こちらも初心者には嬉しい。
木や雲など種類が沢山あるパーツの場合はカタログ的にまとめられているのであとから読み返すときに便利だ。
なにも経験値がない初心者でも、風景画ならば「それらしさ」にたどり着きやすいように感じる。(当然奥は深い)
リターンが大きいのでモチベーションもあがるし、ちょっとした風景をさっとかけるようになればイラストや漫画の背景も寂しくならなくて仕上がりに納得できるようになりそうだ。
風景なんて絶対無理だと思っていたけれど挑戦してようと思えたのはとても大きい収穫だった。
【本】ものすごい勢いで文豪の思想に迫る「ドストエフスキー」
- 作者: 原卓也
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1981/07
- メディア: 新書
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この本はドストエフスキーの生涯や彼が生きたロシアの状況から、彼の作品に込められた思想を解説する本だ。ドストエフスキーの作品とは真反対の薄い新書本ですぐ読みきれるにもかかわらず、内容は大変充実しているし、何年も前に罪と罰を読んだだけで他の知識が皆無の私でも「そういうことね」と思わせる説得力がある。
この本が取り扱ってる主な話題
- 物語の舞台として登場するサンクトペテルブルクの歴史とドストエフスキーのこの都市への考え方
- ドストエフスキーの生涯におけるできごと(とくにシベリア流刑時代)
- ドストエフスキーの宗教思想
- ドストエフスキーの生活について恋愛遍歴やギャンブル中毒など
とくに逮捕~シベリア流刑での体験がドストエフスキーに与えた影響の考察、そこからつながるロシア正教への想いのあたりは、ドストエフスキーの思想を知るのに大変役立つと思う。
また、ドストエフスキーの思想がどの作品においてどう反映されているかも書かれており、作品と結び付けやすいのもよい。
罪と罰はペテルブルクを舞台にした殺人事件をめぐる作品で、背景の思想を知らずとも引き込まれるものがあるから、いち読者として読むだけならばそれでもいいと思うが、せっかくなので作者の思想も知った上で楽しむもの良いと感じた。気合を入れて他のドストエフスキー作品にも触れたい。
個人的には、作品の既読未読にかかわらず、この作家について知りたいと思っている場合に読むといいと思う。と思ったけど薄い本なのでみんな読むといいと思う。(シベリア流刑情報もあるよ!)
ドストエフスキー関連だと以前感想を書いた「『罪と罰』を読まない」という、豪華な参加者達が「罪と罰」を読まないで内容を想像しながら語る読書会本がある。感想では後編の前に罪と罰を読むことを進めているが、今思うと登場人物に対する印象などに先入観を持ってしまうかもしれないので、この本を開く前に一度罪と罰を読了した方がいいと思う。
ikoinoba.hateblo.jp
【映画】悪の教典
「悪の教典」を見た。
主人公・蓮実聖司はある高校で教壇に立つ人気教師だが、実は凶悪な殺人鬼で…というサイコ映画だ。原作は小説(未読)。
私はサイコ(狂人が暴れる)やスプラッタ(血が飛び散る)といったジャンルが好きだ。映画に限らず人が死ぬか否かがフィクション作品に対する興味に直結している。
なぜそうなのか、命に関わる話題を扱う緊張感のあるストーリーを楽しみたいのか、フィクションで人が死ぬところが見たいのか、はっきりはわからないが、フィクションに日常ではありえない(あってほしくない)ものを求めがちなのはおそらくそうだ。
サイコやスプラッタでは異常な精神や知能・身体能力などを持っためちゃくちゃな殺人者、現実でないからこそ楽しめる派手なスプラッタショーなどを求めているのだと思う。(本物のグロ画像は無理だ)
そういった観点から見ていると、自分はこの映画はあまり好きではない。
登場人物や舞台設定に魅力を感じない
主人公の蓮実が殺人鬼として魅力に欠けている。
まず被害者の選定理由が「自分の身近にいる気に食わん奴」or「殺人の隠匿」という理解可能なものなため得体の知れなさがない。身勝手な理由で人を殺めるにしても、動機が普通の人間すぎる。
蓮実は少年時代に両親を殺害(被疑者にはならず)、その後海外に渡り大量殺人(FBI的な人に正体がバレたが国外追放で済んだらしい。普通に捕まえてほしい)、舞台の高校の前に務めていた学校では数人が死亡(事故として処理)という大変に怪しい経歴の持ち主だが警察はノーマークという、まず設定からして無理を感じてしまう。別の人間になったりしないんだ。
そんな状況なのに身近な人間を殺すので当然怪しまれる。最初の数回の殺し以外は自分を怪しむ人々を黙らせるためのものが殆どだし、その殺しの手口が雑でさらに怪しまれたりしてる。よくいままで捕まらなかったな。
それでいて頭脳派強キャラみたいな態度を取るので、そんなかっこつけられるほどかっこよくないぞ!という気持ちになり話が進むほど魅力を感じなくなっていく。
尺の問題なのか蓮実の内面を知る機会もほとんどなく何を考えているか不明で、話を進めるための殺人装置という印象だった。
殺しのターゲットとなる他の登場人物達は人数が多いわりに誰もかれも薄味で特に好感度持てる人もいなかった。ただの殺され役かと思うと主人公とヒロイン的立ち位置の人物が居たり、東大行きを豪語するお勉強できるマンが居たり、変にマンガっぽいノリが強くて方向性がよくわからなくなった。
ストーリー無理ない?
蓮実がちんたら殺してたら手落ちから怪しまれるようになっていき、隠匿のため殺す相手が増えていく…というのが端的なストーリーで、蓮実の殺人鬼としてのふがいなさをひしひしと感じる。
蓮実は最終的に文化祭の準備で学校に泊り込んでいる担任クラスの生徒を全員猟銃で撃ち殺す計画を立てる。破滅する気はさらさらなく、他の教師に罪をなすりつけて自分は社会生活を続ける気まんまんという無茶の三段重ねみたいな事をしようとする。無茶でしょ。
それなりに広い高校校舎で猟銃一本もったひとりに全員殺されるってのは無理があると感じてしまい、そのパートずっと「無理があるのでは?」という気持ちが強かった。1人でも逃せば計画は台無しになるのに蓮実は殺した生徒の名簿にまったり取り消し線引いたりしてるし、彼がうっかりさんなの知ってるからそっち方面でハラハラした。
このパートは凶器がほぼ猟銃のみなので殺し方も単調でスプラッタエンタメとしてもあんまりだし、映像的に惹かれるものもなく盛り上がれなかった。
結
わざわざネガティブな感想をブログに残さなくても…と思い、面白いと思えなかった作品の感想はあまり書いてこなかったが、「なぜつまらないと思ったのか」を考えてみてはどうかと思って書いてみた。
しかしなんだか細かい部分のツッコミに一生懸命になってしまい、結局なぜつまらなく感じたのがふわふわしたままなように感じる。
こうやってこまごましたツッコミが浮かんでくるのは、自分がこの映画の世界に入り込めなかったからだろうか。なぜ入り込めなかったのかは、1.軸となる殺人鬼に魅力を感じられず、2.殺人の発生過程に意外性や異常性がない、3.ストーリーや絵作りに工夫が感じられず惹かれるものがない…などが挙げられると思われる。
ちなみにこの映画最後に「To Be Continued」と出る。おう…。
【美術展】トルコ・トカットの木版(バスク)展
www.setagaya-ldc.net
2019年07月20日(土)~2019年09月01日(日)
生活工房ギャラリー(三軒茶屋)
トルコの木版プリントで彩られたスカーフの展覧会に行って来た。
生活工房ギャラリーは世田谷三軒茶屋のキャロットタワーにある。キャロットタワーは地下鉄田園都市線直結、路面電車の世田谷線につながるランドマークだが、ちょっと裏側に行くと静かな住宅街になっており、地元区民の方は気軽に文化にアクセスできるのでないだろうか。(うらやましい)
会場(撮影可)は1フロアで構成されており、入場無料で受付もないので気軽に出入りできる。小ぢんまりとした室内は単にスカーフを展示するだけではなく、トカット地方の歴史、木版プリントの手法、用語集(持ち帰り可)などの説明もあり盛りだくさんだった。特に制作過程を解説した映像作品はわかりやすいので是非オススメしたい。
伝統的な木版ではよく乾燥させた木に線画を彫り、手作業で布にスタンプしていく。化学反応を使って白地に黒、黒字に白と使い分けて線画を描いている。
彩色方法は二通りあり、筆で塗る方法と木版でプリントするものがある。木版を使った手法は現在非常に希少だそうだ。
トルコでは頭にスカーフを巻く女性が多くいるため、古くから個性溢れるスカーフが作られてきた。現在は機械化により衰退傾向にあり、沢山合ったアトリエも郊外に1つ残るのみだとか…。
スカーフの縁には使用者の手によりオヤと呼ばれる刺繍が付けられる。
オヤは草花をかたどったものが多く見られたが、他にも多くの種類があり、プリントに劣らず美しい。
ショップもあり。トートバッグやアクセサリーなど2000円程度の手頃なものからオリジナル手ぬぐい、スカーフ、大物作品まで雑貨類が揃ってます。展覧会の図録はないようでした。