遺乞いの場

本・映画・展覧会などの感想を書いています。

【本】ローマの歴史

ローマの歴史 (中公文庫)

ローマの歴史 (中公文庫)

古代ローマの歴史をローマ成立から西ローマ帝国滅亡まで解説している。
著者はイタリアのジャーナリストで、非専門家による「古代ローマを学校で一通り習ったけど正直よく覚えてない一般人」向けの古代ローマ史思い出し本という感じ。
出来事の順番や詳細は全然覚えてないけど人物の名前や一通りどんな出来事があったか知ってるくらいだと読みやすそうだった。(とはいえまったく何も知らなくてもそんなに問題は無い)

伝説、実際にあった(と推測されている)事、著者の推測が入り混じり気味だし年代等の記述もしっかり区切られていないので、資料や教科書的な使い方には向いていないと思う。ただ、政治に深く関わった人物に注目して話が進んでいく本で、巻末に人物索引も付いているので「あの人何した人だっけ…」となったときに調べるにはいいかもしれない。
文章は辛らつな歴史小説的なノリでカラっと読み進められるので、資料でなく読み物と思って向き合うと一通りの古代ローマの歴史の流れと登場人物がわかるのでよいと思う。

途中で古代ローマ人の生活を語るコラム的な章が何度か入る。その時代のローマ人の生活全般を語る章の他、演劇を語る章、詩を語る章など1つのトピックについて語る章もある

初めに単行本版を読んでから数年後に文庫版を読んだ。個人的には文庫本で気楽に読むのが良いと思う。

【本】衣服の歴史図鑑

衣服の歴史図鑑 (「知」のビジュアル百科)

衣服の歴史図鑑 (「知」のビジュアル百科)

本の傾向

西欧の流行を時代を追ってビジュアル資料で紹介している。
各見開きに1テーマで、アイテムの実物の写真が結構な数掲載されており、ページによっては再現衣装を着用した全身写真(正面側からの一枚)も掲載されている。
他の文献等でイメージイラストや当時の絵画からの抜粋しか見たこと無い衣服が多い中、再現とは言え実際に着込んでいる写真を見るとイメージがずっとつかみやすくてよかった。
掲載されてるアイテムは可愛いものが多いので、パラパラとめくってビジュアル的に楽しめる。

得られる情報

扱っているテーマは主に16世紀以降の西欧世界。モードの話なので取り扱われているのは主に中・上流階級の大人の衣服で、一般市民の服装については当時の絵画などと一緒にたまに一文あるくらい。兵士とか僧侶とかもほぼ扱われてない(ヴァイキングだけある)。
全ページフルカラーで前述の通り衣服からファッション小物について実物写真と、それぞれに解説文がついている。写真は基本的に各アイテム1枚。

時代順に順番に進んでくと見せかけて、途中で靴特集や帽子特集ページが入ったりしており、ビジュアル的な楽しさ優先であまり整理整頓された印象の本では無い。(この本はそれでいいと思う)
目次の見出しにもテーマの時代は書かれてない(たとえばルネサンスをテーマにしたページは『豪華、流麗、そしてずしりと重く!』という見出しである)ので、見たいものがあるときはパラパラページめくって探す感じである。ページ数少ないので問題は無いと思う。

各アイテムについては解説文に時代が書かれているが、本書自体に参考文献の記載は無い。索引はある。
教科書的に時代を追って文章で説明している本と合わせて見るといいかなと思った。

【本】ロマネスクの美術

ロマネスクの美術

ロマネスクの美術


ロマネスク美術は11~12世紀くらいの西ヨーロッパに広がった聖堂建築を主軸にした中世ヨーロッパの美術様式。順番的にはロマネスクの後にゴシック美術が到来する。

西洋のひとつの美術様式を語るという専門的なテーマの本だが、話の進め方に引き込まれ、立ち上げた仮定を実際の聖堂説明を通じて証明していくシンプルな構成(各美術の詳細を説明していく過程で成し遂げている)により、素人でも迷子にならず、教会建築の魅力を知る事ができるすごい本だと感じた。

本の傾向

とにかく主張(仮定)が一貫していて、ロマネスク美術は精神的な美が追求され、自然主義写実主義を否定する理念に基づいている。といったような説明が本文中何度もでてきて念を押される。
この理念は登場する数々の聖堂を見ていくとまったくその通りで
・遠近法とかしらねぇ!イエスは重要だからめっちゃでかく掘る!!悪魔は小さく!
・頭身とかしらねぇ!俺はこの枠の中を全部埋めるんだ!!
のような作例がガンガン出てくる。

私が一番印象に残ったのはサン・ピエール聖堂の扉口中央柱の側面に彫られた人物象だ。柱の長さに合わせて異様に縦長になった体が張り付くように彫られており、夜中に見たらきっと怖い感じだ。聖堂彫刻や壁画っていうと美人な聖人達が布をまとってすましているイメージが強かったので、そのモンスターじみた姿が衝撃的だった。

建築の大まかな枠組みの中に美術を押し込めるため、人も動物もモチーフの1つのように扱われている大胆さをことごとく見せ付けられるし、様式を遵守するあまり逆にフリーダムさが溢れているように思えるのが楽しかった。

得られる情報

ロマネスク美術は聖堂に基づいているため、教会建築の話しかない。貴族の邸宅の話とかは一切無い。
ロマネスク美術については単体の彫刻や壁画も取り扱っているが、建築様式の説明がかなり丁寧にあつかわれている。建物がどのようなパーツで構成されるのか、どの部分に主軸をおいているのかなど大まかな説明もあるし、アーチ、ヴォールト、壁面構成(アーチの上に階上廊があって~とか)の詳細な説明も実例をあげて説明されている。

また、本文に沿ったわかりやすい写真資料が多く掲載されている。随分本文の説明に沿った写真が多いなと思ったら著者本人が撮影した写真を使っているとのことで専門家パワーにひれ伏すのみ。

ビジュアル資料としても大変参考になり、一からオリジナル聖堂デザインできるのは!?という気持ちにさせてくれる。オススメ

【本】なんでもわかるキリスト教大事典

publications.asahi.com

キリスト教という膨大なテーマに対しする情報がコンパクトにまとめられている本。思想的な部分が取り扱われておらず、足がかりとなる基礎知識が詰め込まれている。資料としてすごくおすすめ。

本の傾向

テーマの全容と区分を示してくれている感じで、自分がどんなものを相手にしているのか理解が進む。
そういう基礎知識に的を絞ってコンテンツがごっそり取捨選択されているため、創作の資料や単に知識としてキリスト教を調べる一歩を踏み出したい人に向いている。

まえがきにも書かれているが、キリスト教そのものや特定の教派への入信を進めたり、もちあげたり、その逆もしない(キリスト教会と接触するのに興味がある人へのアドバイスは結構あるが、推奨しているわけではない)。変な言い方をすれば部外者の立場を貫いているので、同じようにただ「調べたい」人間には読みやすい。

得られる情報

キリスト教内の主な教派を列挙・教義の系統ごとに分類、比較していたのがすごくよかった。
教派の特徴や成立過程・どのような教義から分類しているのか、教義の大まかな説明や組織形態、儀式、傾向、ゆかりの人や物語などを教派それぞれに対して書かれている。
海外小説などで「バプテスト」とか「メソジスト」とか「正教会」って見かけるけど何!?となっていた身だったので、素人にもパっと理解できる言葉で解説されていて、教派解説部分だけでも十分すぎる有用さだった。

教派解説以外の情報だと、信徒や聖職者の日常生活についての解説(日常における信仰活動、祭事、聖職者の収入や服装など)や、キリスト教への接し方(キリスト教圏へ旅行に行くときの注意、教会堂への訪れ方など)が多め。教会へ属する人(修道士・牧師)へのインタビューもある。

なお、この本に含まれている情報は現代(主に日本やアメリカ)での話を前程にしているものがほとんどなので、たとえば中世ヨーロッパでの信徒生活はどうだったのか?といった事はわからない。

ビジュアル情報量はテキストと比較すると少なめだった。聖職者の衣装や祭具などのイラスト解説もあるが、私が購入したのは文庫本なので画像が小さく、ビジュアルの資料とするには心細かった。(イメージを掴むには十分有用)
また、カラーページは最初の2Pのみなので本文中のイラストは全てモノクロ。写真資料は無し。

一つ一つの話題に割かれている文字数が少なめなので掘り下げは浅いが、この本は掘り下げの深さよりとりあげているトピックの多さの方が重要だろう。

教派の系統図や対照表などの図表、索引や用語集も豊富なので手元においておく資料として最適だと思う。