遺乞いの場

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【ネトフリ】ミステリから現実へ着地するまで「邪悪な天才」

2003年、アメリカ ペンシルベニア州のエリーで銀行強盗事件が発生した。
この事件では犯行に本物の爆弾が使用されたが、客や銀行員を脅すための物ではなかった。強盗犯は首に爆弾を巻いたまま銀行を後にした。
強盗犯はまもなく警察に包囲され、周囲に向かって「爆弾が巻かれている。鍵を見つけて外さないと」と訴えた。事態は進展しないまま爆弾は爆発し、重傷を負った強盗犯は現場で死亡する。強盗犯の手には「鍵」を手に入れるための数枚の行動指示書があった。

本作は現実に起きた事件のドキュメンタリーである。

当然、話が進んでいくうちに事件の真相が明らかになり主犯を刑務所にぶち込む事に成功するのだが、万事解決でスッキリするような結末は待っていない。

フィクションのような導入で始まっておきながら、結末に向かうにつれて捜査も行き詰まりを見せたり、気付いたときには重要人物が病気で他界していたり、死亡した実行犯も犯行グループのメンバーである可能性がでてきたり、犯人達自身の証言に頼らざるを得なくなり、酷い言い方だがグダになっていく。そのあたりは現実というものをつきつけられたような気がした。

警察やFBIもドラマのようには行かない。事件当時、爆発物処理班は近くにいないし道路が使えずすぐに来れない。取調べの情報などの連携が組織間でうまくいっておらず、数年してから再発見されるなど。警察もっと頑張れたのでは?と思わされるシーンも多い。

犯行には複数の人物が関わっていたが、家宅捜索をすれば大抵家はゴミだらけだし、別件で逮捕されていたり、貧困や精神障害、麻薬売春その他気分の暗くなるような社会の暗い場所に関わる人々ばかりだった。
前述の通り、捜査の後半では犯行グループメンバー達の証言をたよりに事件を解明していくことになる。犯人達はあいつこそ主犯者だとお互い責任を押し付けあっているため、いまいち信頼できない証言であるがもう他には方法がない。
なんとか事件のあらすじは組み立てられ、主犯は裁判で有罪の判決を受け、はっきりした犯行の目的も判明せず、多くの疑問を残したまま無罪を主張しながら病死した。

事件はなぜ起ったのかとか、どうしたら防げたのかとか、そういう建設的な気持ちを奪われるような深い深い溝を感じる作品だった。気持ちが明るくなる別の作品を用意してから見るのをオススメする。