遺乞いの場

本・映画・展覧会などの感想を書いています。

【映画】悪の教典

悪の教典」を見た。
主人公・蓮実聖司はある高校で教壇に立つ人気教師だが、実は凶悪な殺人鬼で…というサイコ映画だ。原作は小説(未読)。

私はサイコ(狂人が暴れる)やスプラッタ(血が飛び散る)といったジャンルが好きだ。映画に限らず人が死ぬか否かがフィクション作品に対する興味に直結している。
なぜそうなのか、命に関わる話題を扱う緊張感のあるストーリーを楽しみたいのか、フィクションで人が死ぬところが見たいのか、はっきりはわからないが、フィクションに日常ではありえない(あってほしくない)ものを求めがちなのはおそらくそうだ。
サイコやスプラッタでは異常な精神や知能・身体能力などを持っためちゃくちゃな殺人者、現実でないからこそ楽しめる派手なスプラッタショーなどを求めているのだと思う。(本物のグロ画像は無理だ)
そういった観点から見ていると、自分はこの映画はあまり好きではない。

登場人物や舞台設定に魅力を感じない

主人公の蓮実が殺人鬼として魅力に欠けている。
まず被害者の選定理由が「自分の身近にいる気に食わん奴」or「殺人の隠匿」という理解可能なものなため得体の知れなさがない。身勝手な理由で人を殺めるにしても、動機が普通の人間すぎる。

蓮実は少年時代に両親を殺害(被疑者にはならず)、その後海外に渡り大量殺人(FBI的な人に正体がバレたが国外追放で済んだらしい。普通に捕まえてほしい)、舞台の高校の前に務めていた学校では数人が死亡(事故として処理)という大変に怪しい経歴の持ち主だが警察はノーマークという、まず設定からして無理を感じてしまう。別の人間になったりしないんだ。
そんな状況なのに身近な人間を殺すので当然怪しまれる。最初の数回の殺し以外は自分を怪しむ人々を黙らせるためのものが殆どだし、その殺しの手口が雑でさらに怪しまれたりしてる。よくいままで捕まらなかったな。

それでいて頭脳派強キャラみたいな態度を取るので、そんなかっこつけられるほどかっこよくないぞ!という気持ちになり話が進むほど魅力を感じなくなっていく。
尺の問題なのか蓮実の内面を知る機会もほとんどなく何を考えているか不明で、話を進めるための殺人装置という印象だった。

殺しのターゲットとなる他の登場人物達は人数が多いわりに誰もかれも薄味で特に好感度持てる人もいなかった。ただの殺され役かと思うと主人公とヒロイン的立ち位置の人物が居たり、東大行きを豪語するお勉強できるマンが居たり、変にマンガっぽいノリが強くて方向性がよくわからなくなった。

ストーリー無理ない?

蓮実がちんたら殺してたら手落ちから怪しまれるようになっていき、隠匿のため殺す相手が増えていく…というのが端的なストーリーで、蓮実の殺人鬼としてのふがいなさをひしひしと感じる。
蓮実は最終的に文化祭の準備で学校に泊り込んでいる担任クラスの生徒を全員猟銃で撃ち殺す計画を立てる。破滅する気はさらさらなく、他の教師に罪をなすりつけて自分は社会生活を続ける気まんまんという無茶の三段重ねみたいな事をしようとする。無茶でしょ。
それなりに広い高校校舎で猟銃一本もったひとりに全員殺されるってのは無理があると感じてしまい、そのパートずっと「無理があるのでは?」という気持ちが強かった。1人でも逃せば計画は台無しになるのに蓮実は殺した生徒の名簿にまったり取り消し線引いたりしてるし、彼がうっかりさんなの知ってるからそっち方面でハラハラした。
このパートは凶器がほぼ猟銃のみなので殺し方も単調でスプラッタエンタメとしてもあんまりだし、映像的に惹かれるものもなく盛り上がれなかった。

わざわざネガティブな感想をブログに残さなくても…と思い、面白いと思えなかった作品の感想はあまり書いてこなかったが、「なぜつまらないと思ったのか」を考えてみてはどうかと思って書いてみた。
しかしなんだか細かい部分のツッコミに一生懸命になってしまい、結局なぜつまらなく感じたのがふわふわしたままなように感じる。
こうやってこまごましたツッコミが浮かんでくるのは、自分がこの映画の世界に入り込めなかったからだろうか。なぜ入り込めなかったのかは、1.軸となる殺人鬼に魅力を感じられず、2.殺人の発生過程に意外性や異常性がない、3.ストーリーや絵作りに工夫が感じられず惹かれるものがない…などが挙げられると思われる。

ちなみにこの映画最後に「To Be Continued」と出る。おう…。