遺乞いの場

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【本】『罪と罰』を読まない

タイトルで読まない宣言されている『罪と罰』は、帝政ロシア時代の作家ドストエフスキー著作の有名な小説。
この本はその『罪と罰』を(ほぼ)読んだ事がない作家・翻訳家等の4名が、読まない状態で小説の内容を話し合って予想するという雑談本である。(元々は同人誌で出す予定だったらしい)

私は数年前に岩波文庫の『罪と罰』を読んでいる(最近、漫☆画太郎作の漫画版も読んだけどわりかし関係ない)ので著者達とちょっと状況は違う。読んでから数年経ってるので『罪と罰』の内容はほぼ覚えてなかったが、「罪と罰を読まない」は読み始めの時点での『罪と罰』の知識量は問われない本だ。

この本は読前編と読後編に分かれており、著者達は読前編で内容を予想してから『罪と罰』を実際に読み、読後編で感想を言い合うという流れ。

読前編は『罪と罰』最初と最後のページ、各章のうち任意の3ページなど、要所要所で読みながら予想を進めていく。この時点だと予想しながら駄弁ってるだけだけどこの本どうなるんだろうと思ってしまう部分もあるが、深く考えずに著者達の雑談を楽しめていい。

私は以下のやり取りが好きだ。
三浦:私、横領する人の動機がなんなのか、いつも非常に関心を持って見ているんですが、賭博か女以外の理由はまずないです。
岸本:家のローンが払えないとかは?
三浦:ありえないですね。そんなことで横領や殺人をするくらいなら、家を売るか、ローンなんて踏み倒しゃいいんですよ。
岸本:そうか。
P51から引用(ラスコーリニコフはなぜ貧困なのか?という話題で)
「横領する人の動機」に着目し続けてきた目の付け所とか、なんか最終的に納得してるのとか、ちょっとした会話が面白い。

読前編と読後編の間には登場人物紹介とあらすじがあるので『罪と罰』を読まなくてもストーリーの大筋を知ってから読後編に入れるが、個人的には是非『罪と罰』を読んでから読後編に入る事を薦めたい。
読後編は著者達が『罪と罰』を実際に読んだ感想を話し合う。ドストエフスキーの文章の書きぶりや登場人物の台詞回し、新旧日本語訳の比較など、文庫の形態に依存したあらすじや他の媒体では知ることができない部分が多い。数年前に一度読んだだけの私は殆ど覚えてない話ばかりで、飲み会で話題に混じれない人状態になり、読後編に入る前に読み返せばよかった!と大変後悔した。
それでもおぼろげな記憶があっただけ大分マシだったので、本書のエンジョイ度を上げたいのならやはり読後編の前に『罪と罰』を読んでみるのがオススメ。

この本のあとがきに、「読む」という行為はその本の存在を知って読みたいと思ったときから始まり、本の最後のページを読み終わった後も続くという話が語られている。
つい読んだ本の冊数とか、その本を読みきった事実だけを気にしてしまいがちな自分にはかなりはっとさせられる話だった。
罪と罰』をテキストとして用意した本だが、『罪と罰』だけでなく本を読むこと自体が楽しくなる良い本だ。