遺乞いの場

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【本】身近すぎる話:中二階

中二階

中二階

ある会社員男性が昼休みの1時間の中で考えた事を(回想したという体で)ひたすら書き綴った話。

訳者の岸本さんが参加している「罪と罰を読まない」でこの本を知り、すごく細かい話らしいという前情報はあったものの、実際読んでみると、なんだこの人…の連続で未だに消化できていない。

この本を埋めている主人公の思考は「トイレで隣に人こられると尿意止まるのが情けなかったんだ。でもその人の顔に尿をぶっかける想像すれば尿意戻ってくる事を発見したのだ」とか「自販機の取り口のドアがバネで自動的に閉まるから片手に飲み物持ってると取り出すのつらい」とか人間のごくプライベートな思考を浮かぶままに書き出したような内容であり、それだけで1冊書ききってる。回想録にしてもミクロすぎるのでは。
その時点ですでにユニークなのだけど、紙面の殆どを埋める長い注釈(しかも何ページも続く)にも大変戸惑う。注釈部分は特定の事項に対する考察とか、過去の回想であることが多くて「お、おう」となる。

訳者あとがきにもあったが、ある物事(たとえばエスカレータとか)が本文で追求されると、読者の自分もそれが気になってしょうがなくなる。いつもは視界に入っているのにまったく興味を持たなかったエスカレータをじろじろ見て、言われたとおりの構造しているのか確認してしまう。お菓子のペッツやポップコーンや牛乳の話をされると仕事帰りに買って帰ってしまうなど、リアルへの影響がすごかった。
通りがかりにみかけてちょっと気になった物とか、ごく個人的なちょっとした考え事ってくだらないって思いがちだけど、本当にくだらないかはともかく、そんなおかしい事でもないのでは?となぜか勇気付けられた。

ただ、私はこの本が発表された1988年のアメリカの庶民生活を知らないので、その頃の庶民的アイテムについて細かく考察されたり、チェーン店や日用品の興亡の話をされてもピンとこない時がちょっとあった。(社名や商品名が架空なのかすら判断がつかない)逆に、エスカレータとかトイレの温風器とかその頃から全然変わってないんだなあとしみじみした面もあった。
これ、今後時代が移っていったらどんどん話が通じなくなるのでは?と死ぬほど余計なお世話な考えが浮かんだ。