遺乞いの場

本・映画・展覧会などの感想を書いています。

【本】お父さんが教える 13歳からの金融入門

お父さんが教える 13歳からの金融入門

お父さんが教える 13歳からの金融入門

子供向けにお金のしくみや投資について説明している本。

著者が自身の息子に経済を教えようとして冊子を作り始めたのがきっかけということで、読者は子供を想定している。文体や話の進め方は子供に言い聞かせるような感じだけれど、話している内容は金融初心者全体に向いているもので子供専用ではない。

はじめの章で「人は自分の収入内での生活しかできない」「いたずらに生活レベルをあげるな」「身の丈にあった生活をしろ」「貯金しろ」とかなりはっきりした言葉で警告しているのが面白かった。たしかに投資の話をする本読んだら「投資ってすごいなあ!有り金全部投資にいれよ!」ってなる人も居そうなので、初めに釘さしておくのは必要かもしれない。

はじめに話が終ると、いきなり株やらに入るのではなく前提話(通貨は国によって違うし、通貨の価値も異なるなどの基本的な話)が始まる。お金の稼ぎかかたの種類とか、生活とお金の関係を考えた作りになっている。

株や債権などの投資関連の章は、基本事項(多分)の他には著者が「知っておいたほうが良いと思う」ワードを解説している。体系だって網羅的に知る教科書的な感じてはないのだと思う(金融に関する知識は皆無なので判断不能)。
ビットコインなど最新の技術についても、今後の可能性を踏まえた上で紹介されていて、著者は物事を客観的に見る人なんだなあと頭の良さを感じる。

解説においては例え話というか例の挙げ方がうまく、複雑な仕組みの株取引についてもすごく細かく噛み砕いて説明されている。
引っかかる事無く読み進められるし、金融入門者なら13歳でなくとも得られるものが多い本だった。

【本】『罪と罰』を読まない

タイトルで読まない宣言されている『罪と罰』は、帝政ロシア時代の作家ドストエフスキー著作の有名な小説。
この本はその『罪と罰』を(ほぼ)読んだ事がない作家・翻訳家等の4名が、読まない状態で小説の内容を話し合って予想するという雑談本である。(元々は同人誌で出す予定だったらしい)

私は数年前に岩波文庫の『罪と罰』を読んでいる(最近、漫☆画太郎作の漫画版も読んだけどわりかし関係ない)ので著者達とちょっと状況は違う。読んでから数年経ってるので『罪と罰』の内容はほぼ覚えてなかったが、「罪と罰を読まない」は読み始めの時点での『罪と罰』の知識量は問われない本だ。

この本は読前編と読後編に分かれており、著者達は読前編で内容を予想してから『罪と罰』を実際に読み、読後編で感想を言い合うという流れ。

読前編は『罪と罰』最初と最後のページ、各章のうち任意の3ページなど、要所要所で読みながら予想を進めていく。この時点だと予想しながら駄弁ってるだけだけどこの本どうなるんだろうと思ってしまう部分もあるが、深く考えずに著者達の雑談を楽しめていい。

私は以下のやり取りが好きだ。
三浦:私、横領する人の動機がなんなのか、いつも非常に関心を持って見ているんですが、賭博か女以外の理由はまずないです。
岸本:家のローンが払えないとかは?
三浦:ありえないですね。そんなことで横領や殺人をするくらいなら、家を売るか、ローンなんて踏み倒しゃいいんですよ。
岸本:そうか。
P51から引用(ラスコーリニコフはなぜ貧困なのか?という話題で)
「横領する人の動機」に着目し続けてきた目の付け所とか、なんか最終的に納得してるのとか、ちょっとした会話が面白い。

読前編と読後編の間には登場人物紹介とあらすじがあるので『罪と罰』を読まなくてもストーリーの大筋を知ってから読後編に入れるが、個人的には是非『罪と罰』を読んでから読後編に入る事を薦めたい。
読後編は著者達が『罪と罰』を実際に読んだ感想を話し合う。ドストエフスキーの文章の書きぶりや登場人物の台詞回し、新旧日本語訳の比較など、文庫の形態に依存したあらすじや他の媒体では知ることができない部分が多い。数年前に一度読んだだけの私は殆ど覚えてない話ばかりで、飲み会で話題に混じれない人状態になり、読後編に入る前に読み返せばよかった!と大変後悔した。
それでもおぼろげな記憶があっただけ大分マシだったので、本書のエンジョイ度を上げたいのならやはり読後編の前に『罪と罰』を読んでみるのがオススメ。

この本のあとがきに、「読む」という行為はその本の存在を知って読みたいと思ったときから始まり、本の最後のページを読み終わった後も続くという話が語られている。
つい読んだ本の冊数とか、その本を読みきった事実だけを気にしてしまいがちな自分にはかなりはっとさせられる話だった。
罪と罰』をテキストとして用意した本だが、『罪と罰』だけでなく本を読むこと自体が楽しくなる良い本だ。

【本】都市―ローマ人はどのように都市をつくったか

都市―ローマ人はどのように都市をつくったか

都市―ローマ人はどのように都市をつくったか

古代ローマの都市建築を、架空の都市を一から作り上げていく過程を通して解説していく。大判本で、紙面いっぱいにエグい描き込みの手描きイラストが広がっている。

アウグストゥス帝の時代、皇帝が「よっしゃ都市作るか!」と言い出すところから話がはじまり、送り込まれた技師達が都市を作る土地を選定する…と本当に一から作りはじめる。

彼らはまず、想定する最大人口など作る都市の要件から決めている。要件が決まったら土地を決め、レイアウトを決め(将来作る予定の施設の場所もここですでに決まっている)、仮の宿営地を作ったら城壁を立て、道を引き上下水道を引き…とどんどんインフラを整えていき、市場や公共の娯楽施設も作っていく。
絵も豪華だが、計画から建築の現場まできちっと計画的に物事が進んでいく几帳面さがかなり面白い。私が最近シムシティスマホ版で作っている街は、とりあえず作れるものを片っ端から適当に配置した結果計画性皆無の魔都になりつつあるのに。

建物の外観だけでなく、内装や断面図を使って構造を説明したり、建てる所から話し始めて測量など建築技法も説明している。更に建築後に市民がどのように使って生活していくのかまで描かれている。
また、注釈が随分丁寧なので正直古代ローマ全然知らんわという人でも読める大変親切な本。

古代ローマの断面図ものというとフルカラーの図解 古代ローマがあるが、これはローマ市にあった有名な建物そのものを紹介するものなので、都市計画や建築技法を語る本書とは観点が異なる。どちらも資料としても読み物としてもすごく有用だし、大変オススメ

図解 古代ローマ

図解 古代ローマ

【本】図説 ロシアの歴史

図説 ロシアの歴史 (ふくろうの本)

図説 ロシアの歴史 (ふくろうの本)

ロシアを舞台にした小説に関する本を読む予定だったので、予習としてロシアの歴史を知るために読んだ。
タイトル通りロシアの歴史を始まりから現代まで解説した本だが、自分はなんだかストレスフルな本だった。解説があまりやさしく無いのに加えてなんか定期的に説教かまされるのだ。

第一章は「ロシアという国」を述べている章で、まずロシアのプロフィールや文化紹介から入るのかな?と思っていたのだが、頭から「日本人的には第二次大戦や冷戦的にロシアをこうこう思ってるかもしれないけど~」といった始まり方で、なんというかセンシティブな攻め方をされる。章にわたって歴史解釈的にはこうみるべきであるとか、思想・政治的な部分でのロシアへアプローチする流れになっていて結構心がくじけそうだった。
しかも歴史解釈論は第一章以外の章にも度々でてきて、大体は「偏った解釈はよくない。良い面と悪い面を両方見るべき」と結論づけられるのだが、毎度同じような結び方するならそんな何度も言わなくてもいいのでは…と疲れてくる。自分はロシアの歴史に触れるのが初めてで従来の解釈争いなどしらないので、余計しらんがな状態だった。

二章以降はロシアの歴史を追っていく。帝政の頃は話もわかりやすめなのだが、ロシア革命(1917年に皇帝を退位させたやつ)の後、臨時政府が成立したあたりからは複雑になっていく政治まわりに対して。特に噛み砕いた説明も無いのでわかりにくかった。団体や出来事についてもすでに概要を把握している事を前程に書かれているように感じる部分もあり、置いてけぼり感があった。

図説シリーズなのでページ内にかならず図があるが、大体その時代を描いた絵画や写真、人物の写真で図が活用されているというほどでもなかった。(皇帝の家系図とか地図はあった)

ロシアの歴史を一通り知りたかっただけなので、難しくてもいいのでもうちょっと説教じみた部分の無いのがよかったなあと思った。

【本】古代ローマビジュアル大図鑑

 

古代ローマビジュアル大図鑑 (洋泉社MOOK)

古代ローマビジュアル大図鑑 (洋泉社MOOK)

 

古代ローマの特に生活について記事を集めたムック本。 取り扱われている話題は、古代ローマの都市、日常生活、性愛(ここだけやたらダークな話題)、社会福祉、巻末に古代ローマの歴史概略特集など。
オールカラーでビジュアル的ではあるが大図鑑というタイトルが適切かどうかは微妙なところ。

複数人の執筆者が分担してそれぞれの記事をかいており、執筆者はライターなど多岐にわたっている。(監修者もいる)
もともとローマ知識がそれなりにあるか、歴史の話にはあまり興味ないけどローマ人がどう生活していたのか知りたいという場合はいいかもしれない。

巻頭に遺跡写真集がついており、この安価さと紙面サイズでオールカラーの写真が見れるので、それだけでもおつりが来る。
記事の内容についてはページ数の関係もありそこまで掘り下げたものではないが、雑誌的にパラパラめくって興味のわくトピックを発掘するのも楽しいと思う。

【本】ローマの歴史

ローマの歴史 (中公文庫)

ローマの歴史 (中公文庫)

古代ローマの歴史をローマ成立から西ローマ帝国滅亡まで解説している。
著者はイタリアのジャーナリストで、非専門家による「古代ローマを学校で一通り習ったけど正直よく覚えてない一般人」向けの古代ローマ史思い出し本という感じ。
出来事の順番や詳細は全然覚えてないけど人物の名前や一通りどんな出来事があったか知ってるくらいだと読みやすそうだった。(とはいえまったく何も知らなくてもそんなに問題は無い)

伝説、実際にあった(と推測されている)事、著者の推測が入り混じり気味だし年代等の記述もしっかり区切られていないので、資料や教科書的な使い方には向いていないと思う。ただ、政治に深く関わった人物に注目して話が進んでいく本で、巻末に人物索引も付いているので「あの人何した人だっけ…」となったときに調べるにはいいかもしれない。
文章は辛らつな歴史小説的なノリでカラっと読み進められるので、資料でなく読み物と思って向き合うと一通りの古代ローマの歴史の流れと登場人物がわかるのでよいと思う。

途中で古代ローマ人の生活を語るコラム的な章が何度か入る。その時代のローマ人の生活全般を語る章の他、演劇を語る章、詩を語る章など1つのトピックについて語る章もある

初めに単行本版を読んでから数年後に文庫版を読んだ。個人的には文庫本で気楽に読むのが良いと思う。

【本】衣服の歴史図鑑

衣服の歴史図鑑 (「知」のビジュアル百科)

衣服の歴史図鑑 (「知」のビジュアル百科)

本の傾向

西欧の流行を時代を追ってビジュアル資料で紹介している。
各見開きに1テーマで、アイテムの実物の写真が結構な数掲載されており、ページによっては再現衣装を着用した全身写真(正面側からの一枚)も掲載されている。
他の文献等でイメージイラストや当時の絵画からの抜粋しか見たこと無い衣服が多い中、再現とは言え実際に着込んでいる写真を見るとイメージがずっとつかみやすくてよかった。
掲載されてるアイテムは可愛いものが多いので、パラパラとめくってビジュアル的に楽しめる。

得られる情報

扱っているテーマは主に16世紀以降の西欧世界。モードの話なので取り扱われているのは主に中・上流階級の大人の衣服で、一般市民の服装については当時の絵画などと一緒にたまに一文あるくらい。兵士とか僧侶とかもほぼ扱われてない(ヴァイキングだけある)。
全ページフルカラーで前述の通り衣服からファッション小物について実物写真と、それぞれに解説文がついている。写真は基本的に各アイテム1枚。

時代順に順番に進んでくと見せかけて、途中で靴特集や帽子特集ページが入ったりしており、ビジュアル的な楽しさ優先であまり整理整頓された印象の本では無い。(この本はそれでいいと思う)
目次の見出しにもテーマの時代は書かれてない(たとえばルネサンスをテーマにしたページは『豪華、流麗、そしてずしりと重く!』という見出しである)ので、見たいものがあるときはパラパラページめくって探す感じである。ページ数少ないので問題は無いと思う。

各アイテムについては解説文に時代が書かれているが、本書自体に参考文献の記載は無い。索引はある。
教科書的に時代を追って文章で説明している本と合わせて見るといいかなと思った。